アセチレンを赤熱した鉄管に通すことで、様々な有機化学合成の原料となるベンゼンを得ることができます。ここでは、ベンゼンを用いてフェノールを合成し、さらに非常に有益な医薬品の生産にチャレンジしましょう。
ベンゼン環は電子密度が高いため、通常の反応条件では負電荷の水酸化物イオンを反応させることができません。そこで、クロロベンゼン・スルホベンゼンのクロロ基・スルホ基のように、負電荷ごと脱離しやすい基を導入しておくことで、フェノールの合成が容易となります。
塩化鉄を触媒として、ベンゼンの水素を塩素で置換すると、クロロベンゼンが得られます。クロロベンゼンでは、クロロ基が塩化物イオンとして脱離しやすくなっているため、高温の水酸化ナトリウム水溶液に加えることで、クロロ基が水酸化物イオンと交換され、フェノールが生じます。ここで、非イオン性のクロロベンゼンは揮発性であるため、高圧条件下で反応させる必要があります。生成したフェノールは、水酸化ナトリウムで中和されてナトリウムフェノキシドとなっているため、溶液に二酸化炭素を通して酸性にすることでフェノールが得られます。
同様に、ベンゼンと濃硫酸とを反応させると、ベンゼンの水素原子が濃硫酸同士のプロトン供与によって生じた正電荷のスルホニウムイオンと置換され、スルホベンゼンが得られます。このスルホベンゼンを水酸化ナトリウムで中和すると、ベンゼンスルホン酸ナトリウムが生じます。そして、ベンゼンスルホン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとを反応させることでナトリウムフェノキシドが得られますが、スルホン酸イオンは塩化物イオンほど脱離しやすくはないため、反応物の水酸化ナトリウム濃度を非常に高くする必要があり、水酸化ナトリウムの溶融物を用いる必要があります。一方、ベンゼンスルホン酸ナトリウムはイオン性であるため不揮発性であるため、反応条件を高圧にする必要がないというメリットもあります。
フェノールは様々な成分の合成に用いられますが、最も有名な用途は、解熱鎮痛剤であるアセチルサリチル酸(アスピリン)の合成です。フェノールを高温・高圧条件で二酸化炭素及び水酸化ナトリウムと反応させると、サリチル酸が生成し、さらに水酸化ナトリウムで中和されてサリチル酸ナトリウムが得られます。この塩を希硫酸で中和するとサリチル酸が遊離します。さらに無水酢酸を作用させてアセチル化することでアセチルサリチル酸が得られます。アスピリンは解熱鎮痛作用を示すため、発熱、頭痛及び歯痛等の症状軽減に用いられる非常に便利な医薬品です。