自然界には様々な酸が存在しています。たとえば、レモンはクエン酸やアスコルビン酸等の酸を含み、pH2の強酸です。また、果実・穀物の発酵で得られるアルコールは、酸化を受けると酢(酢酸)となります。しかし、これらの有機酸よりも強い酸を得るためには、無機酸をつくる必要があります。
黄鉄鉱を焼いて塩素と反応させると、塩化スルフリルが生成します。この反応物を蒸留すると、塩化スルフリルを液体として分離することができます。塩化スルフリルを水に溶解すれば、硫酸と塩化水素が得られます。硫酸は、代表的な強酸ですし、発生した塩化水素の気体についても回収して、別に用意した水に溶解させれば、同じく強酸として有名な塩酸が手に入ります。硫酸の用途は多岐にわたり、様々な化学反応で強酸、酸化剤又は脱水剤として使われています。また、食塩に硫酸をかければ塩酸が得られ、硝石(硝酸カリウム)に硫酸をかければ硝酸が得られるといった具合に、天然物と反応させることで他の酸に変換することもできます。
硝酸塩は、化学肥料として利用できるだけでなく、強力な酸化作用を持っているため、還元剤及び燃焼剤と混合することで、火薬を製造することができます。実際に、硝酸カリウムに炭(還元剤・燃焼剤)を混合したものが、世界最初の火薬として中国でつくられた黒色火薬です。また、グリセリン、硝酸及び硫酸を混合し、グリセリンに硝酸を結合させたニトログリセリンは、ダイナマイトとしても知られています。
硝酸塩は、硝酸カリウムとして硝石に含まれていますが、手元に硝石がない場合、土壌から抽出することができます。これは、マメ科植物の根では根粒菌がアンモニアを合成しており、さらにアンモニアから硝酸イオンを合成する硝化菌の働きによって、土壌に硝酸イオンが供給されるためです。硝酸塩を火薬等の化成品の製造に用いるためには、できる限り純粋な硝酸塩を用意する必要があります。硝酸イオンは塩になっても溶解度が高いという性質を持っているため、この性質を利用して土壌から硝酸イオンを抽出することができます。硝酸イオンが多く存在する腐葉土に水酸化カルシウムを染み込ませると、多くの無機物は不溶性の水酸化物イオンとして土中に残りますが、硝酸カルシウムは沈殿せずに溶出します。この溶出液は、主に硝酸カルシウムと水酸化カルシウムからなっており、炭酸カリウムを混合すると、水酸化カルシウムは炭酸カルシウムとなり沈殿します。一方、硝酸カルシウムは硝酸カリウムとなり、水溶液中に残るため、濾過することで分離できます。この硝酸カリウムは、黒色火薬の合成に使用できますが、ニトログリセリン合成のように硝酸が必要な場合は、硝酸カリウムを硫酸と混合し、蒸留して精製することで入手できます。